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大阪地方裁判所 平成6年(ワ)777号 判決

大阪府大阪狭山市〈以下省略〉

原告

右訴訟代理人弁護士

久米川良子

東京都千代田区〈以下省略〉

被告

大和證券株式会社

右代表者代表取締役

右訴訟代理人弁護士

阿部幸孝

主文

一  被告は原告に対し、金二二一万五二九五円及びこれに対する平成六年二月九日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを二分しその一を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

四  この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は原告に対し、金四一七万八九九四円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決並びに仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

との判決

第二当事者の主張

一  請求原因

1  当事者

(一) 原告は、昭和四年○月○日生まれであり、旧制の女学校を卒業し、家事手伝いをした後に結婚し、以後専業主婦として夫や子供達の生活に尽くしてきたものである。したがって、社会経験は全くない。

(二) 原告は、以前から被告より勧められるままに現物株や転換社債等を購入していた。しかし、それらは全て老後の資金として貯蓄目的に購入されたものであり、ハイリスク・ハイリターンな商品について利殖目的に取引した経験はなかった。

(三) 原告の息子であるB(以下「B」という。)も、従来より被告において「金貯蓄スポット」という名称の預金を有していた。平成元年五月から平成三年六月まで、Bは勤務の都合でイギリスのロンドンに滞在していたので、原告が、この間のB名義の預金の管理を引き受けていた。

(四) 被告は、証券業を営む株式会社であり、豊中市本町にその支店がある。豊中支店では、Bのロンドン滞在中、原告と、B名義の預金等の取引を行っていた。そして、原告は、この期間中に、被告豊中支店より後記のワラントを購入した。

(五) C(以下「C」という。)は、被告の従業員で、豊中支店に籍を置き、原告の本件ワラント購入を担当した。

2  ワラントとは

(一) ワラントとは、新株引受権ないしこれを表象する証券のことであり、「特定の会社の株式を、一定期間内に、一定の価格で、一定量購入することのできる権利(証券)」のことである。

昭和五六年の商法改正によって、新株引受権付社債(ワラント債)の発行が認められることになり(商法三四一条の八)、その種類について、一体型のワラント債だけではなく、新株引受権(ワラント)のみを取引の対象とすることも認められているが(同条一項及び二項五号)、ワラントとは、この分離型ワラント債から社債部分を切り離して、新株引受権だけを独立して流通させたものである。

(二) ワラントは、次の通り極めて不安定な要素を有しており、投資商品としては非常に危険性の高い部類に属する。

イ 新株引受権行使期間中に譲渡をする場合、株価に連動し、株価以上の値動きを繰り返すハイリスク・ハイリターンの金融商品である。

ロ 公的市場もなく、販売した証券会社によって自由に価格決定ができるために、ワラントの買取が公正に行われない。

ハ 行使期間経過後は、全く無価値なものとなり、いわば紙屑同然になる。

3  事実の経緯

(一) 原告は、平成二年六月末ころに、原告宛に、Cから同年七月二日にB名義の金貯蓄の満期が来るとの連絡があった。その際にCは、原告に対して有利な利回りのワラントに変えることを勧めたが、これはBから預っているもので勝手なことはできないとこれを断った。そして、同じ金貯蓄に継続書換えしてくれるように電話で申し入れた。これに対してCも、同じ金貯蓄として満期を書き換えて取引を継続しておく旨を答えた。なお、当時原告は、同月二八日から約一か月間B宅に滞在するためにロンドンに行く予定があり、それまでに書換えの手続を終えてほしいことも併せてCに申し入れた。

(二) ところがその二日位後に、再度Cより原告宛に電話があった。その電話でCは、「奥さん、ゴールド(金貯蓄)より利回りのいい話がありますよ。奥さんが帰ってこられるまでの間だけ、そちらの方にさせて下さい。決して損をさせるようなことはしません。私を信じて、是非私に運用させてください。」と申し入れた。これに対して原告は、これは息子から預かっている大事なお金なので勝手なことはできない、それにいつBから送金してほしいという連絡があるかもしれず、その時にはすぐに換金できなければいけないので、期間が長期となるような債権には変えることもできない、従来通り金貯蓄を継続しておいてほしいと断った。しかしCは、「戻って来られるまでに必ずゴールドに戻しておきます。決して損をさせるようなことにはなりません。奥さんも言われたとおりにしておいてよかったと、戻ったときにはきっと思われますよ。」と更に熱心に勧誘した。そこで、原告はこれを断りきれず、Cが自分の責任で有利な債権に換えて運用して、帰国予定の八月末には金貯蓄に戻しておいてくれるものと信じて、Cに運用させることに同意した。

原告は、その際Cに対し、いかなる運用をするのかと問い合わせたところ、三洋化成のワラントを購入するとの返事であったが、ワラントがどんな仕組のものであるか等の説明は全く行われなかった。そして、被告から原告宛に、左記のワラント(以下「本件ワラント」という。)を購入した旨、及びB名義の金貯蓄を解約し本件ワラントを購入した旨の通知があった。

商品 三洋化成ワラント

数量 一〇ワラント

単価 金二八万五〇〇〇円

代金 金二八五万〇〇〇〇円

手数料 金二万八一五〇円

税額 金八四四円

金貯蓄清算金 三〇一万二四三二円

清算後繰越金 金一三万三四三八円

原告は、被告からの通知をもらった後、Cに対して、DやB名義の証券等について重大な事態などが生じれば必ず連絡してほしいと頼み、原告がロンドンで滞在する予定のB宅の電話番号をCに教えて、同月二八日にロンドンに出発した。

(三) 原告は、同年八月末ころロンドンから帰国したが、帰国早々にCが原告を訪ねてきたので、元の金貯蓄に戻してあるか否かを確認した。しかしながら、Cは、約束どおりの金貯蓄に戻していないと述べたので、原告は、何故約束どおり金貯蓄に戻していないのか厳しく抗議した。これに対してCは、「お約束どおりなっていなくて申し訳ありません。湾岸戦争という不測の事態が生じてこのようなこととなってしまいました。しかし、これは一時的なことであり、戦争が落ち着けば必ず値を戻すと思います。それまで私に時間をください。どうぞ、お願いします。」と泣きそうな顔をして謝った。しかし、このときも、後になれば購入したワラントは必ず値を戻すと述べるだけで、ワラントには行使期限があること、その期限を過ぎれば紙屑同然になること、さらに、極めて危険性の高い商品であること等の説明は全く行わなかった。ひたすら値を戻すまで待ってほしいと述べるだけであった。したがって、原告は、通常の株や社債等と同様の値動きはあるということは予想できた。しかし、一〇〇分の一以下の価値しかなくなることや紙屑同然になることは、この時点においても全く考えられなかった。

その後原告は、何度もCに対して、本件ワラントを金貯蓄に戻してほしいと連絡した。しかし、Cは、その度に謝るだけで何らの手続を行おうともしなかった。さらに、原告が現在本件ワラントがいくらになっているのかと問いただしても、「同じ値なのです。」と答えるだけで、実際にいくらになっているかを教えようとは全くしなかった。そして他方、原告方を足しげく訪問して、カラーフィルム・ハンカチ・靴下等を持参して、「すみません。こんなに御迷惑をかける事になったのは私の失敗でした。もう少しお待ち下さい。時間を下さい。」と繰り返したのである。その結果、原告は、早期に解約して、被害を最小限に食い止めるチャンスを逸してしまった。

(四) 平成三年六月にBが帰国し、原告は管理していた預貯金を返還することになったが、本件ワラントは未だ元に戻されておらず、また、いくらになっているかも知らされていなかった。そこで原告は、やむなく本件ワラント代金相当額を、自分の老後の資金として貯めていた預金を取り崩して、Bに渡したのである。

(五) 原告は、右の一連の経過において心労のあまり体調を崩すこととなってしまった。

4  本件ワラント取引の違法性

(一) 適合性の原則違反

ワラントは、極めて危険性の高い商品であるだけでなく、その価額決定についても、極めて疑問の多い商品である。その内容も極めて難しいものであり、一般大衆投資家にとって、容易に理解できるものではない。そのため、新株引受権に関する規定が商法で整備された後も、約四年間は、分離型についての国内での発行・流通が制限されたのである。このようなワラントは、本来は原告のような一般大衆投資家に販売すべきものではない。

前記のとおり、原告は、株等の投資行為を行うような社会的な知識や経験は全くなく、家計をもって投資を行うような立場にもない。夫の管理の元に、単なる日常的な入出金を行っていたにすぎず、自分の判断の元に、株やその他の投資的な商品を買うようなことはありえない。

また、証券会社との付合いも、むしろ銀行よりも金利のいい預金という感覚のものであり、取引の殆どが中期国債ファンド(以下「中国ファンド」という。)、金貯蓄等である。平成元年末ころから同二年末ころまでは半年に一回程度現物株と転換社債を購入した事実があるが、それも、Cに勧められて購入したものであり、B名義は中国ファンドと金貯蓄等だけである。

このような原告の経験や知識、証券会社との付合い方、さらに本件ワラント購入に当てた資金の性格等を考慮すると、原告にはワラントの様な危険な取引を行う適格性は皆無であったといわざるをえない。

(二) 説明義務違反

仮に、一般大衆投資家にワラントを販売することが許されるとしても、販売に際してはワラントの特徴と危険性をわかり易く説明して、一般投資大衆家の十分な理解を得ることが不可欠であり、そのことは証券会社の最低限の注意義務ということができる。

しかるに、被告の従業員であるCは、平成二年七月始めころに、右の事実を隠して、ワラントが最後は紙切れ同然となってしまうという事実さえ告げず、危険な取引を行うような知識も経験もない原告に対して、同年八月末には必ず元本と利息を付して元の金貯蓄に戻すと約束して、本件ワラントを購入させたものである。

(三) 証券取引関連諸法令違反

証券会社は、証券取引の制度及び株価変動のメカニズム、株式取引の実務やこれに関するノウハウ及びその他株式取引に必要な情報を蓄積している専門業者である。これに対して、本件の原告を含めて、顧客の殆どは素人であり、多少の知識・経験があっても、専門業者との間には絶対的な格差がある。このような関係の元で、顧客の犠牲において証券会社が利を得ることは、顧客の利を損なうと同時に健全な証券投資を妨げることとなる。そこで、証券取引法及びその他関連法令では、証券会社の投資勧誘に関する行為を規制しているのである。

ワラント取引も株式取引と同様に、証券取引法その他の法令の適用を受け、被告も当然にこれら証券取引関連諸法令を遵守する義務を負担しているが、本件ワラント取引における被告の勧誘等の業務は、著しくこれら諸法令遵守義務に違反している。

(1) 断定的判断の提供の禁止

証券会社が、顧客に対して、株価変動に関する断定的判断を提供することは、証券取引法五〇条一項一号で禁止されている。にもかかわらず、前述のとおりCは、「儲かります。損するものではありません。」と断定的判断を提供して、勧誘した。

(2) 虚偽表示、誤導表示の使用の禁止

証券会社が、勧誘に際して虚偽の情報を提供したり、重要な事実をあえて告知しない等誤解を生じさせる情報を提供することは、証券取引法五〇条一項六号、証券会社の健全性の準則等に関する省令一条一号と、同法五八条二号によって禁止されている。

それにもかかわらず、Cは、前述したとおり、本件ワラント取引に当たり、ワラントが極めてハイリスクな投資商品で、権利行使期間が過ぎると紙屑同然になることを知っていながら、これを秘したばかりか、「損するものではありません。」などと、虚偽もしくは甚だ根拠に乏しい情報を提供したものである。

さらに、取引後も、原告が何度も求めているにもかかわらず、本件ワラントの価値について、虚偽の事実を教えるなどして、解約して被害を最小限に止める機会さえ失わしめたのである。

(四) さらに、本件においては、Cは、自分が責任をもって運用すると述べて、原告を勧誘している。これは、損失補填をする旨を約束した行為であって、証券取引法五〇条の三において禁止されているものである。そして、Cに損失補填の意思なくしてかかる旨を述べたのであれば、まさしく虚偽の事実を述べて原告を勧誘したものであって、詐欺に該当する。

(五) 以上のとおり、本件ワラント取引においては、種々の違法行為が行われたものである。

5  被告の不法行為責任

本件における被告の勧誘行為は、被告自身が原告の権利を違法に侵害したものであって、民法第七〇九条の不法行為に該当する。

また、被告は、証券取引という事業のためにCを信用し、Cがワラントの販売活動という被告の事業の執行についてした行為によって原告が損害を被ったのであるから、民法七一五条の使用者責任を負う。

6  原告の損害

原告は、被告の違法な行為によって、商品価値として乏しい危険なワラントを購入させられ、この購入金・手数料及び税金名下に支払った金二八七万八九九四円の損害を被った。

また、原告は、この被告の不法行為によって体調を壊すほどの心労をきたした。その慰謝料額は金一〇〇万円を下るものではない。さらに、原告が、被告に対して右損害の賠償請求を行うには、事実の内容に鑑みて法律専門家たる弁護士への訴訟委任が不可欠である。弁護士費用は、金三〇万円を下回るものではなく、これは被告の不法行為と相当因果関係のある原告の損害である。

よって、原告は、被告に対して、被告の不法行為によって原告の被った損害合計金四一七万八九九四円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1(一)  請求原因1(一)の事実のうち、原告の生年月日は認め、その余は不知。

(二)  同(二)の事実のうち、原告が被告から株式、転換社債を購入していた事実は認め、その余は不知。

(三)  同(三)の事実のうち、Bが被告より金貯蓄スポットの取引をしていた事実は認め、その余は不知。

(四)  同(四)、(五)の各事実は認める。

2(一)  請求原因2(一)の事実は認める。

(二)  同二の事実のうち、ワラントが株価に連動し、株価以上の値動きを繰り返すハイリスク・ハイリターンの金融商品であること及び行使期間経過後は全く無価値なものとなることは認め、その余は争う。

3(一)  請求原因3(一)の事実は争う。

(二)  同(二)の事実のうち、Cが本件ワラントを勧誘して取引をしたことは認め、Cが原告主張のような勧誘をしたことは否認し、その余は争う。

(三)  同(三)、(四)の事実は争う。

4  請求原因4の主張のうち、証券取引法の定めについては認め、本件ワラント取引において被告が違反しているとの点は争う。

5  請求原因5、6の主張は争う。

三  被告の主張

1  本件取引はBとの間に行われたものであり、原告は本件訴訟の当事者適格と有せず、その請求は失当である。

なお、本訴訟における被告の右以外の主張は、前記主張が認められない場合を仮定してのものである。

2  被告がBと証券取引を開始したのは、昭和六三年九月六日、中国ファンド金一〇〇万円の買付けを受けたときからであるが、その取引は現実には原告が行っていたものである。

また、B同様に原告が行っていた取引は、Bの他にD(以下「D」という。)名義による取引口座も存在し、同口座による取引は、同月一日、中国ファンド二〇〇万円の買付けから始まっている。

両口座共に取引を開始したころは、中国ファンドの売買であって、その回数も比較的少なかったが、平成元年一一月ころからその取扱商品も中国ファンドから株式を含め、他商品へと拡張され、その取引回収並びに取引も大巾金額に増加していった。

3  右のように、原告は、証券取引に経験を積み重ね、しかもその取引は極めて慎重で、商品の買付け及び売付けについては十二分に自分で吟味して行い、被告担当者Cに委せるというが如きものではなかった。

Cは、右のような原告に対し、本件ワラントを勧誘したものであるが、当時の日本経済は、いわゆるバブル経済と呼ばれた好況期の真只中にあり、証券業界もその影響をまともに受け、「買えば儲かる」という状況下にあり、ワラントは、投資効率の高い商品として投資家の人気を博している商品であった。

したがって、ワラントに対する評価は、バブル経済が崩壊した現在における感覚とは大巾に異なり、証券取引を行う投資家一般にワラントに対して危険視する感覚は薄く、理論上は現在批判されているような危険性も有しているが、その危険性は株式を中心とする証券一般にそれぞれ内包しているのであって、ワラントに対する危険性を特に取り上げて、これを危険視し取引を回避する風潮にはなかった。

4  Cは、右の如き状況のもとに、平成二年七月五日、原告に対して本件ワラントを勧誘したのであるが、右時期は丁度金貯蓄スポットが償還される時期であったので、次の投資対象として効率が高く、投資家の人気を得ていたワラントを紹介したものである。

当時被告会社においては、ワラントを紹介するについては、ワラントが新しい商品であるところから、その内容について説明し、顧客からはその説明を了解して取引をするものであることを確認した旨を証する確認書を取得することを義務付けていた。

而して、Cは原告に対し、本件ワラントを紹介するについては、

(一) ワラントは、将来予め定められた価格でもって新株式を買い取ることができる権利を売買するものであること、

(二) ワラントの価格は、株価の変動に応じて上下し、投資効率が高いこと、

(三) 反対に権利行使期間が存在し、その期間を経過すると価値を失うので、その期間到来までに売却すること、

の要旨を説明し、ワラント取引説明書と取引に関する確認書とを原告に対して送付している。

そして、平成二年七月一六日に送付した確認書に対し、B名義の記名押印を行った上で提出を受けたものである。

原告は、ワラントは極めて危険な取引であり、原告としては金貯蓄を行うことを指示していたと主張するが、当時の状況は、前記のように、理論的には危険性があるとしても、その危険性が一〇〇パーセント実現される状況に至るとは誰も予想するものはなく、ワラントに対する理論上の危険性を聞かされても、それに対して強くこだわることなくワラントを購入したのであり、原告においても、Cの前記説明と説明書の交付を受け、その内容は知り得た筈であるが、その危険性にとらわれることなく、本件ワラントを購入したものである。

5  ところが、その後中東湾岸戦争という予想せざる事態が発生し、これを契機として世界経済は大不況に突入し、証券市場にはその影響が直接に当たり、ワラント価格は軒並下落していったのである。

右のような予想せざる経済事情の変化によって、原告は、本件ワラントによる損失を被ったのであるが、原告としても、最初は右のような購入時の事情からして本件ワラントによる損失は止むを得ないものとし、Cに対し右損失を取り返せるような商品の紹介を要請したりした。

そこで、Cは、平成三年三月六日、アオキインターナショナルの公募株式を紹介し、原告はD名義でもってアオキインターナショナル株一〇〇〇株を購入し、同株は無償増資分を含めると本件ワラント購入代金分程度の利益を生み出した。

そこで、Cは、右株式は一旦売却することを勧めたが、原告はより値上りすることを期待してこれを拒絶したのである。

以上のように、原告は、Cの紹介による利益分については黙視し、損失分についてのみCの詐欺的行為の如くに述べて非難するが、若し、原告主張の如くに本件ワラント購入についてCが原告を騙して行った取引であるならば、一年近くも経過した平成三年三月に、右の如きアオキインターナショナル株の取引をしたりはしない筈であるし、また、被告との取引を平成五年一月ころまで継続したりする筈がないのである。

第三証拠

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。

理由

一  原告が昭和四年○月○日生まれであること、原告が被告から株式、転換社債を購入していたこと、Bが被告より金貯蓄スポットの取引をしていたこと、被告が証券業を営む株式会社であり、豊中市本町にその支店があること、豊中支店では、Bのロンドン滞在中、原告とB名義の預金等の取引を行っていたこと、Cが被告の従業員で、豊中支店に籍を置き、本件ワラントを勧誘して取引をしたことは、いずれも当時者間に争いがない。

二  右争いのない事実に甲第一、二号証、第一三ないし二二号証、第二三号証の一、二、乙第一ないし五号証、第七ないし一〇号証、第一一号証の一、二、第一二ないし一五号証、第二五号証、第二六号証の一ないし五、第二七号証、証人Cの証言、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すれば、以下の事実が認められる。

1  原告は、昭和四年○月○日生まれであって、昭和二一年三月に旧制女学校を卒業し、昭和二八年に勤務医であるDと結婚した。学校卒業時から結婚するまでも、家事手伝いをしており、その後も専業主婦として生活してきた。家計の管理についても、日常的なもののみを任されているだけであり、大きな取引については、すべて夫が管理している。

2  山一証券の従業員であるDの知人の紹介で、原告が窓口となって、山一証券との取引が行われるようになった。年に数回、勧められるがままに株を購入し、勧められるままにそれを売却するというやり方で、取引が継続された。ところが、山一証券の担当者が代わり、原告がその担当者を信用できないと感じるようになったので、昭和六〇年ころからは、山一証券に株が預けられたままになってはいたが、新たな取引が行われない状態となった。

3  山一証券との取引関係が停止状態となっていたころから、当時豊中市にあった原告の家(以下「豊中の家」という。)を被告のセールスマンが尋ね、中国ファンド等の購入を熱心に勧誘した。そして、知人がやっていることから、原告も中国ファンドの利用を考えるようになり、昭和六三年夏ころに、被告の豊中支店に説明を求める電話をした。Cがその電話に出て原告の住所等を聞き、原告の自宅を訪問して勧誘し、原告が被告から中国ファンドを購入して、取引が始まった。以後、原告が現住所に転居した後も、被告の豊中支店で、原告が窓口となって、D名義の取引が行われた。また、同時にBやBの妻からも頼まれ、B名義の取引も同様に原告が窓口となって行われることとなった。

4  Cは、原告が現住所に転居した後も、管理のために豊中の家に来ていた原告を訪問し、また電話をかけて勧誘を繰り返した。そして昭和六三年一〇月二一日には、当時売り出されて評判となったNTTの株を二株購入(応募)させた。

その後Cは、原告が山一証券で購入した株が山一証券に預けられたままになっていることを聞き、それを被告に預けるように熱心に勧めた。その際、Cが保管料は無料にすることを約束したので、原告は、預けることとした。

右の後、Cは、原告に毎日のように電話をかけ、種々の株の取引を熱心に勧めるようになった。原告が現住所に移った後も、狭山市の原告方に電話をかけて勧誘し、原告は、D名義で井関農機や南海電鉄等の株や転換社債を購入した。

5  原告は、B名義でも中国ファンドや金貯蓄の取引を行った。Bがロンドンに赴任していた関係などから、原告が管理を任されていた。原告は、Cに対して、Bがロンドンにいること、同人から送金依頼があるかもしれないので、短期の金貯蓄などでなければならないこと等を告げていた。そこで原告は、Cからゴールドは一か月から預けることができ、長期に預ける必要がないと勧められ、平成二年三月からは、もっぱら金貯蓄スポットを買い付け、それを書き換えるということを繰り返してきた。B名義の取引は、そのころからは、ほとんどが短期の金貯蓄のスポットであり、D名義で取引したような株や社債の取引はない。

6  原告は、平成二年七月二日ころ、Cから同月六日にB名義の金貯蓄の満期が来るとの連絡を受けた。その際にCは、原告に対して有利な利回りのワラントに変えることを勧めたが、原告は、これはBから預かっているもので勝手なことはできないとこれを断った。そして、同じ金貯蓄に継続書換してくれるように電話で申し入れた。これに対してCも、同じ金貯蓄として満期を書き換えて取引を継続しておく旨答えた。

なお、当時原告は、同月二八日から約一か月間B宅に滞在するためにロンドンに行く予定があり、それまでに書換えの手続を終えてほしいことも併せてCに申し入れた。

7  ところがその二日位後に、再度Cより原告宛に電話があった。そしてその電話で本件ワラントを勧誘したCは、「奥さん、ゴールドより利回りのいい話がありますよ。奥さんが帰ってこられるまでの間だけ、そちらの方にさせて下さい。決して損をさせるようなことはしません。私を信じて、是非私に運用させて下さい。」と申し入れた。このようにCは、ワラントがハイリスク・ハイリターンの商品であるとか、行使期限があるなどということは全く告げず、必ず一か月後に金貯蓄に戻すと約束して、熱心に勧誘した。これに対して原告は、これは息子から預かっている大事なお金なので勝手なことはできない、それにいつBから送金してほしいという連絡があるかもしれず、その時にはすぐに換金できなければいけないので期間が長期となるような債権には変えることもできない、従来どおり金貯蓄を継続しておいてほしいと断った。しかし、Cは、「戻って来られるまでに必ずゴールドに戻しておきます。決して損をさせるようなことにはなりません。奥さんも言われたとおりにしておいてよかったと、戻ったときにはきっと思われますよ。」と更に熱心に勧誘した。そこで、原告は、これを断りきれず平成二年七月六日に満期になる金貯蓄スポットの金三〇二万一四七三円で本件ワラントを購入することを承知した。

8  本件ワラントの約定がされた日の翌日である平成二年七月六日ころ、被告は原告に対し、原告の豊中の住所宛に、取引説明書が送付したが、その中には取引商品が本件ワラントであることの外に数量、単価、支払額などが記載されている。

また、同月一一日ころ、被告は原告に対し、本件ワラントの預り証及び受渡計算書を送付している。預り証にはワラントの銘柄の外に権利行使最終日の記載も為されており、受渡計算書には本件ワラントを購入した旨、及びB名義の金貯蓄を解約し本件ワラントを購入した旨が記載されている。

さらに、同月一六日、Cは、豊中の家を訪れ、原告に対し、金貯蓄清算金三〇一万二四三二円と本件ワラント代金及び手数料等との差額金一三万三四三八円を交付するとともに、国内新株引受権証券(国内ワラント)取引説明書を交付し、原告は、その際、国内新株引受権証券及び外国新株引受権証券の取引に関する確認書にB名義の署名をした。

9  平成二年八月末にロンドンから帰国した原告は、Cに電話をして約束どおり金貯蓄に戻してくれているかどうか聞いたところ、Cは、もう少し待ってほしいと原告に懇願した。そこで、原告は、言われるままに金貯蓄に戻すことを待つことにしたところ、Cは、それまでとは異なり、種々の景品等を原告に渡すようになった。

その後も、原告は、以前と同様に被告において取引を継続し、フジッコ、菱洋エレクトロ、アオキインターナショナルの株等も、勧誘されて購入している。右のような取引を継続する一方で、原告は、何度も本件ワラント購入代金を元の金貯蓄に戻すようにCに求めた。それに対してCは、ただ、「お待ちください、ご迷惑をおかけしています」「済みません。こんなに御迷惑をかける事になったのは私の失敗でした。もう少しお待ち下さい。時間を下さい」と繰り返したにすぎなかった。なお、平成三年ころ、原告がワラントの説明を求めたのに対し、Cは、転換社債のようなものだと述べたり、いくらになっているのかと尋ねたことに対しても「同じ値です」と答えて、結局、若干でも取り戻すチャンスさえなくす結果となってしまった。

10  平成五年の夏ころ、原告は、新聞でワラントの記事を見て、初めてCが買い付けたワラントが危険な商品であり、そのためお金を返して貰えないのではないかと危惧を抱いた。そして、電話をかけてCに問いただしたところ、Cもそれまでとは態度を変えた。そこで、原告は、同年一一月一日に、被告豊中支店に出向き、Cと同店の次長との三人で話し合うこととなった。その席で、Cは、「ロンドンから帰るまでにゴールドに戻しておくという約束はしていない。」と言った。

そこで、原告はそれまでのCが「待って下さい」「迷惑をかけているからお詫びです」等と述べて、種々の商品を持ってきたことも、原告がCの上司に苦情を述べるのを遅らせる手段であったと考え、被告宛に手紙を書き、Cが勝手に購入した本件ワラントに関する苦情を申し入れた。

11  原告は、平成三年ころから、Bから預かっている金貯蓄が戻って来ないのではないかと悩み、体調を崩していたが、右の会談後、さらに体調が悪化し、咳き込んだり、蕁麻疹に悩むようになった。

なお、原告はBに対し、自己の金員をもって本件ワラント代金相当額を返済している。

以上の認定に関し、原告本人尋問の結果中には、Cからワラントについての説明はおろかワラントという言葉さえ聞かされていない旨供述する部分が存するが、右供述は、原告の訴状における主張とも矛盾する上、Cに運用を任せるとしても、何に投資するのかも全く聞かないで自己が管理している金員を預けることはあり得ないことであるから、この点に関する原告の供述は採用できない。

他方、証人Cは、本件ワラントを原告に紹介するについては、ワラントは新株式引受権を売買するものであること、権利行使期間があり、期間が経過すると価値を失うこと、価格は株価の変動に応じて上下し、株式の三倍位の値動きをするハイリスク・ハイリターンの商品であること、本件ワラントの価格は日経新聞にも掲載されていること等を説明した旨証言するが、Cが本件ワラントを勧誘した当時の日本経済は、いわゆるバブル経済と呼ばれた好況期の真只中にあり、証券業界もその影響をまともに受け、「買えば儲かる」という状況下にあり、ワラントは、投資効率の高い商品として投資家の人気を博している商品であったこと、したがって、ワラントに対する評価は、証券取引を行う投資家一般にワラントに対して危険視する感覚は薄く、ワラントに対する危険性を特に取り上げて、これを危険視し取引を回避する風潮にはなかったことは、被告の指摘するとおりであり、かかる時期に、Cが殊更ワラントの危険性を説明したとは到底解されないし、Cの証言には客観的証拠と矛盾する箇所も多く、前記証言部分は措信し得ない。

三  被告担当者の勧誘の違法性について

1  違法性判断の一般的基準

一般に、証券取引は、証券価格が政治・経済情勢等の諸事情によって変動するものであるから、その変動による危険を伴うものであり、証券会社から提供される情報等も将来の政治・経済情勢等の不確定な要素を含む将来の見通しの域をでないのが実情であり、投資家自身において、開示された情報を基礎に、自らの責任で、当該取引の危険性と、それに耐え得る財産的基礎を有するかどうかを判断して行うべきものである(自己責任の原則)。

しかしながら、証券会社が証券市場を取り巻く政治、経済情勢はもとより、証券発行会社の業績、財務状況等について高度の専門的知識、豊富な経験、情報等を有する一方で、多数の一般投資家が証券取引の専門家としての証券会社の推奨、助言等を信頼して証券市場に参入している状況の下においては、このような投資家の信頼も十分に保護される必要があり、これについて、証券取引法五〇条一項一号、五号、五八条二号、昭和四〇年一一月五日大蔵省令第六〇号「証券会社の健全性の準則等に関する省令」一条は、証券会社又はその役員若しくは使用人による断定的判断の提供、虚偽の表示又は重要な事項につき誤解を生じさせるべき表示等を禁止し、大蔵省証券局長通達「投資者本位の営業姿勢の徹底について」(昭和四九年一二月二日蔵証第二二一一号)で、投資家に証券の性格や発行会社の内容等に関する正確な情報を提供すること、勧誘に際し投資家の意向、投資経験及び資力等に最も適合した投資が行われることに十分配慮すること、取引開始基準を作成し、それに合致する投資家に限り取引を行うこととされ、日本証券業協会制定の公正慣習規則九号で、証券投資は投資家自身の判断と責任において行うべきものであることを理解させるものとするとし、取引開始基準の制定や説明書の交付等が定められ、投資家の保護が図られているところである。

もっとも、これらの法令、通達、協会規則等は、公法上の取締法規又は営業準則としての性質を有するにすぎないため、これらの定めに違反した行為が私法上も直ちに違法と評価されるものではないが、これらの法令等は多数の一般投資家が証券会社の推奨、助言等を信頼して証券取引を行っているという状況の下で、投資家の信頼を十分に保護するために制定されたものであるから、証券会社及びその使用人は、投資家に対し、虚偽の情報ないし断定的判断等を提供するなどして、投資家が当該取引に伴う危険性について正しい認識を形成することを妨げることを回避し、また、投資家の財産状態及び投資経験に照らして明らかに過大な危険を伴う取引を積極的に勧誘することを回避し、さらに、投資家に対し当該取引に伴う危険性について的確な認識を形成するに足りる情報を提供すべき注意義務を負うというべきであり、証券会社やその使用人がこれに違反して投資勧誘に及んだときは、具体的状況によっては、右勧誘行為は私法上も違法となるものというべきである。

2  適合性原則違反について

(一)  原告は、そもそもワラントを一般大衆投資家に対して販売すること自体が適合性原則に違反し、違法であると主張する。

しかし、商法が分離型新株引受権付社債の発行を一般に認めており、証券取引法も個人投資家へのワラント販売を別段禁止していないなど、法律上も一般投資家への流通が予定されていること、ワラントは小額の投資で高い利益を得ることができる反面、投資金額の全額を失う危険があるものの、投資資金の額以上の損失を被ることはない等の事情を総合すれば、国内ワラント取引を一般投資家に対して販売すること自体が適合性原則に違反するとはいえない。

(二)  また、原告は、原告にはワラント取引につき適合性がない旨主張する。

確かに、原告は、前記のとおり、専業主婦として生活してきた者であり、家計の管理についても、日常的なもののみを任されているだけであって、大きな取引については、全て夫が管理している上、山一証券及び被告との取引も、投資し得る金員がある範囲内で勧められるままに売り買いしていたものである。

しかし、原告が過去に職業に就いた経歴がないとしても、原告は本件ワラント取引当時は六二歳の年令に達しており、その間には種々の社会経験を経ている筈であるし、能力的にも当時としては恵まれた環境にあり、且つ優秀な数少ない者しか進学し得なかった旧制の女学校を卒業している程であり、Cの勧誘に対しても、自己の行う取引について適否を判断し、その意見をCに伝える能力は十分に備えていたと解されるし、また、本件ワラント取引が一〇ポイント、二八五万円であり、従前それを上回る取引をしてきたことからすれば、原告にワラント取引につき適合性がなかったとはいえない。

3  説明義務違反について

(一)  前記のとおり、証券会社及びその使用人は、投資家に対し、当該取引に伴う危険性について的確な認識を形成するに足りる情報を提供すべき注意義務を負う。その説明義務の内容及び義務違反の有無については、当該取引の種類、具体的態様、顧客の職業、年齢、財産状態、投資の目的、従前の投資経験の有無及びその程度を総合し、具体的かつ個別的に判断するのが相当である。

(二)  これを本件についてみるに、原告が六〇歳を超えた主婦であって職業経験がないこと、原告自らの資金で投資をしたことはなく、夫及び長男の名義でされていた取引の窓口になっていたにすぎないこと、従前の取引経験、取引の傾向及び本件ワラント取引以前にワラントについての知識を全く有していなかったこと、並びにCが原告に対し、ワラントがハイリスク・ハイリターンの商品であるとか、行使期限があるなどということは全く告げず、決して損をさせないこと及び一か月後には必ず金貯蓄に戻すと約束して勧誘したこと、しかも右勧誘は電話によってされ、取引が成立するまでには、Cは原告に対し、パンフレットあるいはワラントの特質及びその危険性について記載した書面等何らの書面も交付していないこと、本件ワラントに関する取引・応募報告書や預り証は約定後に原告宛に送付されたものの、原告の現住所ではなく豊中の家に送られたこと、その後本件ワラントの価格が下がり続けたにもかかわらず、平成五年に至るまで原告がCないし被告に対し、本件ワラント取引について異義等を述べたことがないことは前記認定のとおりであり、かかる事実関係からすれば、Cの本件ワラントの勧誘には説明義務違反があるといわなければならない。

4  証券取引関連諸法令違反

前記認定のとおり、Cは、ワラントについての知識を全く有していなかった原告に対し、ワラントがハイリスクてハイリターンの商品であるとか、行使期限があるなどということは全く告げず、決して損をさせるようなことはしない旨を述べて、本件ワラントを勧誘したものであり、Cの右勧誘方法は、虚偽の事実を述べた詐欺には該当しないものの、証券取引関連諸法令に違反するものであり、原告の経歴及び投資経験等本件に現われた諸事情に照せば、私法上も違法となるといわなければならない。

四  被告の責任

原告は、本件における被告の勧誘行為は、被告自身が原告の権利を違法に侵害したものである旨主張するが、右事実を認めるに足りる証拠はないから、原告の右主張は理由がない。

しかし、被告が証券取引という事業のためにCを使用し、Cがワラントの販売活動という被告の事業の執行につきした行為によって原告に対し損害を被らせたのであれば、被告は原告に対し、民法七一五条の使用者責任を負うことは明らかである。

なお、被告は、本件取引はBとの間に行われたものであり、原告は本件訴訟の当事者適格と有せず、その請求は失当である旨主張するが、前記認定のとおり、原告は、被告の従業員であるCの違法な勧誘により、自己が管理しているB名義の金貯蓄スポットの清算金をもって本件ワラントを購入させられたのであるから、被告の右主張は理由がない。

五  原告の損害

甲第二号証、乙第一四、一五号証、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、原告は被告に対し、本件ワラントの購入代金として金二八五万円、手数料として金二万八一五〇円、税金として金八四四円、合計金二八七万八九九四円を支払ったこと、その後本件ワラントの価格は下がり続けたが、Cが原告に対し、待つように述べたために売却時期を失し、平成四年ころからほぼ無価値となったことが認められ、右事実によれば、本件ワラントの購入代金二八七万八九九四円に相当する額を損害と評価することができる。

ところで、前記認定のとおり、Cは、ワラントについての知識を全く有していなかった原告に対し、ワラントがハイリスク・ハイリターンの商品であるとか、行使期限があるなどということは全く告げず、決して損をさせるようなことはしないない旨を述べて、本件ワラントを勧誘したものであるが、他方原告は、B名義の金貯蓄スポットの清算金の運用をCに任せたものである上、事後的とはいえ、本件ワラントの預り証や金貯蓄スポットと本件ワラント購入代金との精算書である受渡計算書、国内新株引受権証券(国内ワラント)取引説明書を受け取り、国内新株引受権証券及び外国新株引受権証券の取引に関する確認書にB名義の署名をしていることなど、本件に現われた諸般の事情を考慮すると、過失相殺として原告の本件ワラント取引による損害金の三割を減ずるのが相当である。したがって、原告は、金二〇一万五二九五円(一円未満切り捨て)の損害を被ったものということができる。

また、原告が本件訴訟の提起・追行を原告訴訟代理人に委任したことは本件記録上明らかであるところ、本件事案の内容、請求認容額等諸般の事情を斟酌すれば、原告が被告に対し損害賠償として請求し得る弁護士費用は、金二〇万円と解するのが相当である。

なお、原告は、被告の不法行為によって体調を崩すほどの心労をきたした旨主張し、原告本人尋問の結果によれば、右事実を認めることはできるが、原告の本件ワラントの購入と心労との間には相当因果関係はないから、原告の右主張は理由がない。

六  以上によれば、原告の本訴請求は、金二二一万五二九五円及びこれに対する平成六年二月九日(本件訴状送達の日が平成六年二月八日であることは記録上明らかである。)から支払済みに至るまで年五分の割合による金員の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条本文を、仮執行宣言につき同法一九六条を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 島田清次郎)

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